『日経新聞』書評に反論

日経新聞書評

 6月22日(土)の日経新聞に拙著『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』(新潮社)の紹介を載せていただきました。
 ただ、この見解、スマート農業を推進する評者の見解であるため、私の思うところが反映されていないように思いますので、少し反意を寄せておきたいと思います。

 まず、私の立ち位置というのは、「いかに農業の価値を社会に適正に位置付けるか」というところにあります。すなわち、スマート農業のような従来の近代農業路線(機械化や合理化を中心とした生産性向上)を続けてきた結果、農業と農産物の価値が上がらなかったという認識に立つところから始まっています。農業を営んでいる方であれば誰しもわかるかと思いますが、機械の導入は確かに農作業を楽にしてくれたかもしれませんが、その結果として農業の価値、野菜の価値は何一つ上がりませんでした。むしろ「生産性の向上は農業と野菜の価値を下げているのではないか」。それこそが、この本を執筆した動機の一つなのです。

 拙著では、高額なハイテク機械の導入を繰り返すことの危険性として、「技術の悪循環」という現象を紹介しています。ハイテク機械を導入することで生産性が向上し、その結果として現状の価格下での供給が需要を上回って価格が下がる。価格が下がったことで同じように下がってしまった収入を補填するために、さらなる生産性の向上を目指し、新たに開発されたより高額なハイテク機械を導入する、結果としてさらに価格が下がって収入も下がる。このようなことがエンドレスに続く現象を、社会学では「技術の悪循環」と呼びます。

 仮に、現在の日本が、高度成長期のような時代であれば話は別です。しかし、現在の日本はマーケットが先細りを続ける人口減少時代。生産性の向上の行きつく先は終わりのない価格競争です。完全に農産物の関税を取り払って輸出に賭ける国づくりを目指すべきだという見解もあります。しかし、日本には中国やオーストラリア、そしてアメリカのような広大な農地があるわけではありません。生産性を向上させ続けた価格競争の限界はすぐにやってくることが目に見えています。

 そして重要なことがもう一つ。それは日本の高品質な農作物は、あくまでも農業者の技能によって支えられているということです。機械をはじめとした科学技術は平均をとることには確かに長けています。しかし、それで高品質な農作物が取れるという考え方自体が間違っています。これまで、日本の農家は、農作物一本一本に向き合うような営みを永く続けてきました。農作物と会話し、その声を聴く身体性を身に着けることにより、その作物に適した施肥や剪定、水やり等々を行って来たのです。

 だからこそ、日本の農作物は高品質だったのです。その背景を無視してハイテク機械を導入すれば高品質な農作物を大量生産できるという考え方はあまりに現実離れした見解であると言わざるを得ません。仮に現在、ハイテク機械を導入しているような農業であっても、その背景には確実に従来の農業の「伝統」が存在しています。このような背景を無視して従来の日本の「伝統」的な農業を駆逐し、科学技術一辺倒になってしまえば、日本の農作物の品質は喪われてしまいます。

 生産性の向上批判は、これまでも幾度となく叫ばれてきました。しかし批判ばかりで生産性を向上させること以外で経営を安定させて経済を回す方法が考えられて来ませんでした。拙著のキモは何と言っても、理系のテクノロジー論とは異なる方法で、経済を回す方法を示した農産物のラグジュアリティーブランド化論にあります。評者である大泉一貫氏は、スマート農業と農産物の付加価値を同列に論じているわけですが、生産性の向上と価値は反比例することがほとんどです。機械によって大量生産された安価な商品が価値を持ち続ける可能性はほとんどありません。

 それから、最後にもう一つ付け加えておきます。私はスマート農業や生産性の向上を完全には否定しているわけではありません。スマート農業を導入して合理化を図り、生産性を向上した方が良い部門もあるでしょう。しかし、その場合はマーケティングやマーチャンダイジング、営業、そしてブランドマネジメント等々は農家が完全に掌握しておく必要がある。そうでなければ「技術の悪循環」によって農家からの価値の流出が止まらなくなってしまう。拙著では、この点についても「分業化と闘う」という項目で論じています。

 単に農産物を高く売ることでなく、農業の価値の創造を図り、農家が農家としての誇りと遣り甲斐を取り戻す方法を提案したのが『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』です。

 まだ未読の方は是非ともご一読ください。

 

野口 憲一

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