2020年1月11日(土)に『朝日新聞』「ひと」欄に私の記事を掲載していただきました。
さて、私が昨年4月に出版した『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』(新潮新書)は、朝日新聞、産経新聞、日経新聞、日本農業新聞等に書評を載せていただきました。その上、昨日新たに、朝日新聞に記事にしていただいたわけです。
要するに左右両陣営の主要紙に加え、農業の専門紙からも一定の評価を頂いたものと自負しています。そこで改めて、今回の記事の基になった拙著の説明をさせていただきたいと思います。
拙著では、農業や農村を文化的・社会的な側面にのみ特化して評価する姿勢を批判したことに加え、一方では農業の文化的・社会的な価値を換金可能な価値として再創造することを提案しました。本文中では省略しましたが、農産物のラグジュアリティブランド化です。
すなわち、両方の見解を加味したハイブリット案です。そのうえで、従来の機械を用いた大量生産大量消費型の農業経営・経済に代わる方向性を示したのが本書です。
農業は生活のための収入を得るための手段であって目的ではありません。私は、農業にとって最も重要なのは、経営や経済であると確信しています。
このことを軽視・無視した視座は、趣味であればともかく、対価として現金収入を得るための仕事として十分とは言えないでしょう。何より私自身が、農作物を販売した利益で生活を営む立場である以上、このことは何があっても守らなければなりません。
しかし、だからと言って、農業の持つ文化的な側面、社会的な側面を無視するわけにもいきません。これまでの日本の農業を支えて来たのは、このような側面だからです。レンコンを100年近くも作り続けてきたような農家に生まれた立場として、この点は譲ることができません。
このことに加え、人口減少時代を迎える今後の日本の農業が、ハイテク機械を駆使した大量生産大量消費型だけで良いはずがありません。大量生産大量消費は工業製品の経済学です。しかも、このような農業は環境負荷が極めて高い。SDGsが求められる昨今、農業もこの点を考慮することが望ましいでしょう。
本書は、まず何よりそのタイトルから、農作物を高額で販売するためのブランド化のハウツー本と捉えられるかもしれません。もちろん、そういった側面があるのも事実です。しかし本書の主要な目的は、農作物販売のためのハウツーではありません。
拙著で目指したのは、今後の日本の農業経営・経済について、複雑に錯綜する現実と理想を汲み取った「最適解」を示すことです。このことを民俗学者として、子供のころから携わった農業の経験に基づいて、日本の農業が目指す未来の可能性として示しました。
新潮社の優秀な編集者の力を借り、分かりやすく親しみやすい文体になっていますが、その背景には農業経験に加え、広範な学術的知識と学術的調査で得た見解が埋め込まれています。
まだ拙著を未読な方は、これを機会にぜひともご一読ください。
野口 憲一